○バッハ ゴールドベルク変奏曲
        高橋 悠治(P)
    (エイベックスクラシックスAVCL25026)

高橋悠治さんがまたバッハに帰ってきた!フーガの技法からすでに10年以上もたっているから我々ファンには忍耐が必要だ。しかも今回は再録音となるゴールドベルク変奏曲。期待しない訳がない。とは言え彼が再録音を行うこと自体が大変な驚きである。その辺のところも彼自身によるライナーノーツにもきちんと書かれているわけではないのだが、その中で彼はしきりにアジアという言葉を使う。アメリカ、ヨーロッパ生活からの帰国後、バッハの連続演奏会を開く。引き続いてバッハや古典派作品の録音をした60〜70年代の活動期から、アジアの音楽に集中した80年代以降を経てからのバッハへの回帰。いっそう自らをアジアの文化圏に属する人間として強く意識してようなのだが、演奏には以前にも聴かれた彼独特のフレージングがあるものの、アジアンフィルターを通ったというようなものは感じられなかった。むしろ76年に録音されたものに比べ、バッハそのものに近づいているかのような演奏になっている。特にテンポ設定は理想的といえ、万人に推薦できると思う。旧録に比べて10分近くゆっくりした演奏を味わっていると、そこは高橋さんのこと、最後のアリアでハッとはせられた。その表現の巧みさ、いや自然にそうやっているんだけれどさすがと唸らされる。

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